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結論:共有名義の不動産を売る道は「全員で売る」「自分の持分だけ売る」「分けてから売る」の3つです。手元に残る金額が一番大きくなりやすいのは全員で売る道ですが、全員の合意が要ります。合意が取れないときに一人で動けるのは持分だけを売る道で、その代わり価格は下がりやすくなります。まず共有者全員の名前と連絡先、持分の割合を登記で確かめてから、どの道かを選んでください。
親から相続した実家や土地が、兄弟姉妹の共有名義になっている。誰も住む予定はないので売りたいが、一人が反対している、あるいは連絡が取れない。相続した不動産では、こうした状況がよく起こります。
この記事では、共有名義のまま売るときの3つの道を、①誰の同意が要るか ②価格はどうなりやすいか ③税金の特例が使えるか ④かかる時間 で比べます。法律の部分は民法の条文(e-Gov法令検索)、税金は国税庁のタックスアンサーを開いて確認した範囲で書いています。個別の判断は司法書士・弁護士・税理士に確認してください。
相続から売却までの全体の順番は、実家・空き家を相続したら何から?順番で読むガイドにまとめています。
まず確かめる3つのこと(登記・連絡先・持分)
どの道を選ぶにしても、最初に次の3つを手元にそろえます。ここが曖昧なまま不動産会社に相談しても、「全員の意思が確認できてから」と言われて止まります。
- 登記上の名義人と持分の割合:登記事項証明書で、誰が何分の何を持っているかを確認します。相続登記がまだ親の名義のままなら、先に相続登記が必要です(相続登記は令和6年4月1日から申請が義務になっています。法務省の民事基本法制の見直しのページ参照)。
- 共有者全員の連絡先:全員と連絡が取れるか。取れない人がいる場合は、後で説明する裁判所の手続きが候補になります。
- 各共有者の意向:売りたい・残したい・住みたい・決めていない。理由もメモしておくと、話し合いのときに条件のすり合わせができます。
兄弟の間で話が進まない理由と、話し合いの前にそろえる数字は相続した実家の話し合いが止まる理由で整理しています。
3つの道の比較表
| 道1 全員で売る | 道2 自分の持分だけ売る | 道3 分けてから売る | |
|---|---|---|---|
| 誰の同意が要るか | 共有者全員 | 他の共有者の同意は不要 | 協議がまとまれば全員の合意。まとまらなければ裁判所に分割を請求 |
| 買い手 | 一般の買主・不動産会社 | 主に持分を専門に扱う買取業者 | 分けた後の自分の部分は一般の買主にも売れる |
| 価格 | 物件全体の価格を持分で分けるため、3つの中で高くなりやすい | 全体価格×持分割合より低い提示になりやすい | 分け方次第。土地の形や広さによっては分けることで価値が下がる |
| 税金の特例(空き家の3,000万円控除など) | 要件を満たせば各相続人が検討できる | 要件の確認が必要(税理士に) | 要件の確認が必要(税理士に) |
| かかる時間 | 合意さえあれば通常の売却と同じ | 比較的短い | 協議なら数か月、裁判になると長くなる |
| 向いている場面 | 全員が売ることに賛成 | 一部が反対・連絡がつかない。自分だけ早く手放したい | 土地が広く分けやすい。自分の部分は残したい人がいる |
表の「価格」は傾向であり、個別の物件で必ずそうなるわけではありません。実際の金額は、複数の会社に査定や買取の見積りを出してもらって比べます。
道1:全員で売る(価格は有利になりやすい、条件は全員の合意)
物件全体を一つとして売るには、共有者全員がそれぞれの持分を売ることに合意する必要があります。民法251条は、共有物に変更を加えるには他の共有者の同意が必要と定めています。また、252条は管理に関することを持分の価格の過半数で決めると定めていますが、変更はその対象から外しています。さらに、各共有者が処分できるのは自分の持分だけです。つまり、持分が過半数でも、他の人の反対を押し切って全体を売ることはできません。
合意が取れれば、手順は通常の売却と同じです。仲介で時間をかけて売るか、買取で早く確実に売るかは、空き家は仲介と買取どっちで売る?で、手元に残る金額での比べ方を説明しています。
全員で売るときに決めておくこと:
- 窓口になる人:不動産会社とのやり取りを一人に決める。全員がばらばらに連絡すると話が混乱します。
- 売り出し価格の下限:「この金額以下なら売らない」を事前に書面やメッセージで共有しておく。
- 費用の分担:測量・解体・残置物の片付けの費用を、持分の割合で負担するのか、売却代金から差し引くのか。
- 税金の相談先:譲渡所得の申告は各自が行います。相続人ごとに使える特例が違う場合があるので、早めに税理士に相談します。相談先の使い分けは相続した不動産を売るときの相談先にまとめました。
道2:自分の持分だけ売る(同意は不要、価格は下がりやすい)
持分は各共有者の財産です。民法は、自分の持分を第三者に売ることについて、他の共有者の同意を求めていません(251条の同意は「共有物そのものに変更を加える」場合の話です)。そのため、他の共有者が反対していても、連絡がつかなくても、自分の持分だけを売ることはできます。
ただし、買う側から見ると、持分だけを買っても物件を自由に使えるわけではなく、他の共有者との調整を引き受けることになります。一般の個人が買うことはまれで、主な買い手は共有持分を専門に扱う買取業者です。その分、提示額は「物件全体の価格×自分の持分割合」より低くなりやすいと考えておきます。
持分を売る前に確かめること:
- 他の共有者に買い取ってもらえないか:同じ兄弟姉妹が自分の持分を買ってくれるなら、第三者に売るより話が早く、関係もこじれにくい場合があります。
- 複数社の見積り:持分の買取額は会社によって差が出ます。1社だけで決めない。
- 売った後のこと:第三者が共有者に加わると、残った兄弟姉妹はその会社と話をすることになります。家族との関係を考えて、事前に一言伝えるかどうかも決めておきます。
道3:分けてから売る(共有物分割)
共有をやめて、自分の部分を単独の名義にしてから売る道です。民法256条により、各共有者はいつでも共有物の分割を請求できます(5年を超えない期間内は分割しないという契約がある場合を除く)。
分け方は、土地を線で分ける(現物分割)、一人が全体を取得して他の人にお金を払う、全体を売って代金を分ける、などがあります。話し合い(協議)がまとまらない、または協議ができないときは、裁判所に分割を請求できます(258条)。裁判所は、現物で分ける方法や、一部の共有者に他の共有者の持分を取得させてお金を払わせる方法で分割を命じることができ、それができない、または分けると価格が著しく下がるおそれがあるときは、競売を命じることができます。
相続した不動産で気をつける点:共有の持分が相続財産に含まれていて、まだ遺産分割をしていない場合は、原則としてこの裁判による分割ではなく遺産分割の手続きで分けます(258条の2)。ただし、相続開始から10年を過ぎると、条件によってはこの裁判による分割もできるようになります。自分のケースがどちらに当たるかは、司法書士か弁護士に確認してください。
共有者と連絡が取れないとき(令和3年改正で加わった手続き)
共有者の中に、誰なのか分からない人や、所在が分からない人がいるときのために、令和3年の民法改正(令和5年4月1日施行)で裁判所の手続きが加わりました。
- 所在等不明共有者の持分の取得(262条の2):裁判所の裁判で、所在が分からない共有者の持分を、請求した共有者が取得できる。
- 所在等不明共有者の持分の譲渡(262条の3):所在が分からない共有者以外の全員が持分を特定の人に譲渡することを条件に、所在不明者の持分もその人に譲渡する権限を、裁判所が請求した共有者に与えられる。つまり、物件全体をまとめて売れるようにする手続きです。
どちらも、所在不明者の持分が相続財産に属し、まだ遺産分割をすべき場合は、相続開始から10年を過ぎていないと使えません。また、所在不明者には、取得の場合は持分の時価相当額、譲渡の場合は代金を持分に応じて分けた額を支払う仕組みがあります。手続きの細部は司法書士・弁護士に相談してください。
税金:空き家の3,000万円控除は相続人の人数で上限が変わる
相続した空き家(または取り壊した後の敷地)を売ったときは、要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります(国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)。対象は平成28年4月1日から令和9年12月31日までの売却です。
共有名義で特に気をつけたいのは、令和6年1月1日以後の売却では、その家屋と敷地を相続した相続人が3人以上いると、控除の上限が1人2,000万円になる点です。兄弟3人で共有している場合は、ここで手取りの試算が変わります。
特例には建物や売却についての細かい要件があり、道2・道3のように一部の持分だけを動かす場合の扱いも含めて、売る前に税理士へ確認してください。「売った後で特例が使えないと分かった」を避けるためです。
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よくある質問
Q1. 共有者の一人が反対しています。持分が過半数なら売れますか?
A. 反対している共有者がいる限り、物件全体の売却はできません(所在不明の共有者がいる場合だけは、262条の3の手続きがあります)。民法252条の「過半数で決める」は管理に関することで、物件全体を売るには、各共有者がそれぞれの持分を売ることへの全員の合意が必要です。一人で動けるのは自分の持分を売る道か、分割を請求する道です。
Q2. 自分の持分を売ったら、他の兄弟に知らせる義務はありますか?
A. 民法上、持分の売却に他の共有者の同意は求められていません。ただし、持分を買った人や会社が、その後に他の共有者へ連絡してくることは考えられます。家族との関係を考えて、事前に伝えるかどうかを決めておくことをおすすめします。
Q3. 兄弟の一人と何年も連絡が取れません。売る方法はありますか?
A. 令和5年4月1日施行の改正で、裁判所の裁判により所在不明者の持分を取得する、または全体をまとめて譲渡できるようにする手続き(民法262条の2・262条の3)が加わりました。相続財産の場合は相続開始から10年の要件があるので、司法書士・弁護士に確認してください。
Q4. 持分を買取業者に売ると、いくらになりますか?
A. 物件の価格、持分の割合、他の共有者の状況で変わるため、一律の目安はありません。一般に、物件全体の価格を持分で割った金額より低い提示になりやすいので、複数社に見積りを出してもらい、全員で売る場合の試算と並べて比べてください。
出典
- e-Gov法令検索「民法」第206条・第251条・第252条・第256条・第258条・第258条の2・第262条の2・第262条の3 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
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