地方旅館を廃業する前に比べる3つの道|第三者への引継ぎ・建物の活用・廃業を公的窓口と旅館業法で整理

AI実務家コンサルタント

大智(Daichi)

  • ▶2013年から不動産関連の実務に携わる
  • ▶公開資料・一次資料で地方の不動産と遊休施設を読む
  • ▶AIは調査と整理に使い、判断の根拠は一次資料で示す
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【この記事の結論】後継者がいない地方旅館は、廃業を決める前に①第三者への引継ぎ(事業ごと)②建物だけを活かす(売る・貸す・用途を変える)③廃業の3つを、この順番で比べると、取れたはずの選択肢を見落としにくくなります。最初の相談先は、国が設置する無料の公的窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」。旅館業の許可は、事業を譲る場合でも都道府県知事の承認を受ければ譲受人に引き継げます(旅館業法第3条の2)。

なぜ「廃業」を最初に決めないほうがいいのか

旅館の廃業は、営業をやめる手続きだけでは終わりません。建物・土地・設備・借入・従業員・取引先・予約の扱いを一つずつ決める必要があり、建物が残れば固定資産税と管理の負担も続きます。一方で、同じ旅館でも「事業として引き継ぐ人がいる」「建物だけなら使いたい人がいる」場合があり、廃業を先に決めると、この2つの選択肢を比べる前に閉じてしまいます。

この記事は、旅館の経営者本人と、親の旅館をどうするか迷っている家族の方に向けて、3つの道を比べる順番と、それぞれの最初の一歩を整理します。金額や成約の見込みは旅館ごとに大きく違うため、この記事では書きません。数字は相談先で個別に確かめてください。

3つの道を比べる表

道何を引き継ぐか最初の相談先向いている状態注意点
①第三者への引継ぎ(事業承継)旅館の事業そのもの(屋号・従業員・取引先・許可など)事業承継・引継ぎ支援センター(無料)営業を続けていて、顧客や従業員がいる民間のM&A支援機関を使う部分は有償。旅館業の許可は知事の承認が要る
②建物だけを活かす土地・建物(事業は終える)不動産会社、自治体の空き家・遊休施設の窓口事業は続けられないが、建物の立地や状態に価値がある用途を変えるなら建築基準法・消防法の確認が要ることがある
③廃業なし(清算する)税理士、保健所(旅館業の廃止の手続き)①②の相手が見つからず、続けるほど負担が増える土地・建物を持つ限り固定資産税と管理は続く(解体しても土地の税は残る)。解体するかは別に判断

①第三者への引継ぎ:国の無料窓口から始める

中小企業基盤整備機構の「事業承継・引継ぎポータル」によると、事業承継・引継ぎ支援センターは国が設置する公的相談窓口で、親族への承継も第三者への引継ぎも相談できます。第三者承継支援のページには、次のことが書かれています。

  • 相談は無料。民間でM&Aを進める場合のセカンドオピニオンとしても使える
  • 譲渡の進め方の助言や譲渡先の紹介を行い、全国47都道府県のセンターで情報を共有している
  • センターに登録された民間のM&A仲介業者・金融機関を紹介することもあり、その支援は有償
  • 「後継者人材バンク」で、後継者のいない会社や個人事業主と、創業を目指す人を引き合わせている

旅館は「建物」と「事業」がセットで動きます。まず公的窓口で、事業として引き継げる余地があるかを確かめてから、民間を併用するかを決める順番がおすすめです。

旅館業の許可は引き継げるのか

旅館業法では、許可を受けて旅館業を営む人(営業者)が旅館業を譲渡する場合、譲渡人と譲受人がその譲渡について都道府県知事の承認を受けたときは、譲受人が営業者の地位を承継すると定めています(第3条の2)。法人の合併・分割(第3条の3)、相続(第3条の4)にも同様の規定があります。

相続の場合は、相続人が被相続人の死亡後60日以内に知事へ申請して承認を受ける必要があります(第3条の4第1項)。親の旅館を続けるか迷っているうちに期限が過ぎることがあるため、家族が経営者のときは早めに保健所へ手続きを確認しておくと安心です。具体的な書類や窓口は、施設のある都道府県(保健所を設置する市・特別区ではその市・区)で確認してください。

②建物だけを活かす:事業を終えても建物は残せる

事業としての引継ぎ手が見つからなくても、建物や土地に使い道がある場合があります。客室・浴場・厨房がそろった建物は、宿泊施設として別の事業者が使うほか、ほかの用途に変えて使われることもあります。進め方は大きく3つです。

  1. 売る:不動産会社に査定を依頼する。旅館は一般の住宅より買い手が限られるため、複数の会社に聞く
  2. 貸す:建物を持ったまま、運営する事業者に貸す
  3. 用途を変える:宿泊以外の用途に変える場合、規模や用途によっては建築基準法の確認申請や消防設備の見直しが要る

古民家や空き旅館を宿泊施設として再生する進め方は古民家・空き旅館を宿泊施設に変える実践ガイドに、用途を変えるときの建築基準法の考え方は、廃校を例にした用途変更と建築基準法の記事にまとめています。考え方は旅館の建物にもそのまま使えます。売る場合は、売値だけでなく手元に残る金額で比べることが大切です(仲介と買取を手元に残る金額で比べる表)。

③廃業:最後に選ぶときに確認すること

①②の相手が見つからず、続けるほど赤字や借入が増える場合は、廃業が合理的な判断になることもあります。そのときに確認しておきたいのは次の点です。

  • 旅館業の廃止の手続き(施設のある保健所へ。期限と様式は自治体ごとに確認)
  • 借入の返済と、個人保証がある場合の扱い(取引のある金融機関・専門家に相談)
  • 従業員・取引先・すでに入っている予約への対応
  • 建物を残すか、解体するか(解体費がかかる一方、土地の固定資産税は残る。住宅部分がある場合は税額が変わることがあるため、市町村の税務課・税理士に先に確認)

廃業を決めた後でも、建物の売却や賃貸(②)は検討できます。「営業はやめる、建物は活かす」という組み合わせもあり得ます。

相談の前にまとめておく5項目と、聞く質問の文例

どの道を選ぶにしても、相談先が最初に知りたいのは次の5つです。手元の資料で書ける範囲で1枚にまとめておくと、相談が早く進みます。

  1. 直近3期の売上・利益と、借入の残高
  2. 客室数・稼働の状況、従業員の人数
  3. 土地・建物の所有者(本人・家族・法人のどれか)と、建物の築年数
  4. 旅館業の許可を持っている人(個人か法人か)
  5. いつまでに決めたいか、家族の意向

相談の場では、次のように聞くと、比べるための材料が集まります。

  • 「事業ごと引き継ぐ相手を探す場合と、建物だけを売る場合で、進め方と費用のかかり方はどう違いますか」
  • 「民間の仲介会社を使う場合、どの段階から費用がかかりますか。手数料の計算方法を教えてください」
  • 「旅館業の許可を譲受人に引き継ぐには、いつ、どの窓口で、何の書類が要りますか」
  • 「建物を宿泊以外の用途に変える場合、確認申請や消防設備の見直しは必要になりそうですか」
  • 「廃業する場合、借入と保証、建物の扱いで先に決めるべきことは何ですか」

よくある質問

Q. 事業承継・引継ぎ支援センターの相談は本当に無料ですか?

中小機構のポータルの第三者承継支援のページに「無料で相談に対応」と書かれています。ただし、センターから紹介された民間のM&A支援機関による支援は有償と明記されています。どこから費用がかかるかは、相談時に確認してください。

Q. 旅館を誰かに譲ったら、相手は新しく許可を取り直す必要がありますか?

旅館業法第3条の2により、譲渡人と譲受人が都道府県知事の承認を受ければ、譲受人は営業者の地位を承継します。承認の手続きや必要書類は、施設のある都道府県・保健所で確認してください。

Q. 親が亡くなった後、子が旅館を続けるには期限がありますか?

あります。旅館業法第3条の4により、相続人が旅館業を続けるときは、被相続人の死亡後60日以内に知事へ申請して承認を受ける必要があります。相続人が複数いる場合は、全員の同意で承継する人を選ぶことができます。

Q. 建物が古くても、売ったり貸したりできますか?

建物の状態と立地によります。宿泊施設として使い続けるのか、用途を変えるのかで必要な工事や手続きが変わるため、不動産会社への査定と、用途を変える場合の確認(建築士・自治体)を並行して進めるのが現実的です。

まとめ:決める順番は「引き継ぐ→活かす→やめる」

後継者がいない旅館でも、廃業は最後の選択肢として残しておけます。まず国の無料窓口で事業として引き継げる余地を確かめ、難しければ建物だけを活かす方法を比べ、それでも合わなければ廃業を選ぶ。この順番で比べると、取れたはずの選択肢を見落としにくくなります。

廃校や遊休施設の活用の全体像は廃校活用の公募・サウンディング情報まとめにまとめています。建物の使い道を考えるときの参考にしてください。

※この記事は公開資料(中小企業基盤整備機構の事業承継・引継ぎポータル、e-Govの旅館業法)をもとに一般的な考え方を整理したもので、個別の取引や手続きの結果を保証するものではありません。2026年10月30日に一次資料を確認しました。

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