この記事の結論(3行)
- 古民家・空き旅館を宿にするときは、最初に「旅館業の許可を取るか、民泊(住宅宿泊事業)の届出にするか」を決めます。年間180日を超えて泊めたいなら、原則として旅館業の許可が必要です(特区の制度などの例外は自治体で確認)。
- 次に、宿として使う部分の床面積が200㎡を超えるかを測ります。超えると建築基準法の用途変更の確認申請が必要です。200㎡以下でも、建物を宿の基準に合わせる必要はあります。
- 改修の契約・物件の購入の前に、保健所(旅館業・民泊)、建築の窓口、消防署の3か所へ図面を持って事前相談します。事業計画や集客はその後です。
更新日:2026年11月2日。条文はe-Gov法令検索で確認しています。最終的な判断は所在地の保健所・建築の窓口・消防署で確認してください。
宿にする方法は3つ:旅館業・民泊・その他の特例
古民家や廃業した旅館に人を泊めて宿泊料を受け取るには、法律上の枠組みを1つ選びます。
| 仕組み | 根拠 | 手続 | 泊められる日数 | 向いている建物 |
|---|---|---|---|---|
| 旅館・ホテル営業 | 旅館業法2条2項・3条 | 都道府県知事等の許可 | 上限なし | 個室を複数つくれる旅館・大きな民家 |
| 簡易宿所営業 | 旅館業法2条3項・3条 | 都道府県知事等の許可 | 上限なし | 一棟貸し・相部屋・小さな古民家 |
| 住宅宿泊事業(民泊) | 住宅宿泊事業法2条3項・3条 | 都道府県知事等への届出 | 1年間で180日まで(数え方は省令で定める。条例でさらに制限される区域あり) | 人の居住の用に供されていると認められる「住宅」 |
旅館業法では、旅館業は「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の3つです(2条1項)。簡易宿所営業とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造・設備を主とする施設で人を泊める営業のことです(2条3項)。古民家の一棟貸しを旅館・ホテル営業と簡易宿所営業のどちらで申請するかは、建物の構造と条例によって変わるため、保健所で相談して決めます。
住宅宿泊事業法の「住宅」は、台所・浴室・便所・洗面設備があり、人の居住の用に供されていると認められる家屋に限られます(2条1項)。営業専用に買った空き旅館は、この「住宅」に当たらないことがあるため、民泊の届出ではなく旅館業の許可を前提に考えます。
このほか、農山漁村の体験民宿や特区の制度など、地域や運営者によって使える特例があります。使えるかどうかは自治体で異なるため、この記事では「旅館業」と「民泊」の2つを基本線として扱います。
旅館業の許可で確かめる構造設備の基準
旅館業の許可は、施設の構造設備が政令の基準に合っていることが条件です(旅館業法3条2項)。政令(旅館業法施行令1条)の主な基準は次のとおりです。
| 区分 | 客室の広さ | ほかの主な基準 |
|---|---|---|
| 旅館・ホテル営業 | 1客室7㎡以上(寝台を置く客室は9㎡以上) | 玄関帳場その他の本人確認の設備、換気・採光・照明・防湿・排水、入浴設備、洗面設備、便所 |
| 簡易宿所営業 | 客室の延床面積33㎡以上。宿泊者数を10人未満とする場合は3.3㎡×宿泊者数以上 | 階層式寝台の上下の間隔おおむね1m以上、換気等、入浴設備、洗面設備、便所 |
さらに、都道府県・保健所設置市・特別区が条例で基準を上乗せしています(施行令1条1項8号など)。たとえば帳場の置き方は、条例と保健所の運用で差が出ます。学校などの施設の周囲おおむね100mの区域内では、旅館業法3条3項の扱いと、客室の内部を見通せないようにする設備の基準(施行令1条1項7号)が加わります。物件を決める前に、所在地の保健所で「この建物でどの区分の許可が取れるか」を確認してください。
例として、宿泊者を6人までとする小さな古民家なら、簡易宿所営業の客室の延床面積は3.3㎡×6人=19.8㎡以上が目安になります(ほかの基準と条例も満たす必要があります)。
建築基準法:用途変更の確認申請が要るかの分かれ目
住宅や事務所として建てられた建物を宿にする場合、建築基準法上は「用途の変更」になります。ホテル・旅館は、建築基準法の別表第一(い)欄(二)項に挙がる特殊建築物です。
建築基準法6条1項1号は、別表第一(い)欄の特殊建築物でその用途の床面積の合計が200㎡を超えるものを確認の対象としています。87条1項は、用途を変更してこの特殊建築物にする場合に、確認の規定を準用しています。
| 宿として使う部分の床面積 | 用途変更の確認申請 | それでも必要なこと |
|---|---|---|
| 200㎡を超える | 必要(87条1項で6条を準用) | 建築士による図面・既存建物の調査、確認済証の交付後に工事、完了後に建築主事等へ届出 |
| 200㎡以下 | 不要 | 建物を宿の用途の基準に合わせる。旅館業の許可や消防の基準は別に満たす |
確認申請が不要でも、建築基準法の基準を守らなくてよいわけではありません。用途地域で宿が建てられるかや、宿の用途にかかる規定は、建築の窓口で確認してください。古い建物は、建てたときの確認済証・検査済証が残っていないことがあり、その場合は既存建物の調査に時間と費用がかかります。廃校の用途変更で同じ論点を整理した記事も参考になります(→廃校の用途変更と建築基準法)。
改修の契約前にやる3か所の事前相談
許可・届出・用途変更は、それぞれ別の窓口です。どれか1つでも通らないと宿として営業できないので、改修の契約や物件の購入の前に、図面(平面図・面積の分かるもの)を持って3か所を回ります。
| 窓口 | 聞くこと |
|---|---|
| 保健所(旅館業・民泊の担当) | この建物で取れる区分(旅館・ホテル/簡易宿所/民泊)、条例の上乗せ基準、帳場の要否、学校等の近くでの手続 |
| 市町村・都道府県の建築の窓口 | 宿として使う床面積の数え方、用途変更の確認申請の要否、用途地域で宿が建てられるか、既存建物の確認済証・検査済証の有無 |
| 消防署(予防課など) | 必要な消防用設備(自動火災報知設備など)、改修で求められる内容、旅館業の許可申請に添える書類 |
窓口で使える質問の文例:
- 「この平面図の部分を簡易宿所として使う予定です。宿泊者は6人までです。条例で上乗せされる基準はありますか」
- 「宿として使う床面積は○㎡です。用途変更の確認申請の対象になりますか。数え方で注意する部分はありますか」
- 「旅館業の許可申請までに、消防からどんな書類・設備が必要になりますか」
民泊の届出を選ぶ場合も、条例で区域ごとに実施期間が制限されることがあります(住宅宿泊事業法18条)。届出の前に、自治体の条例と窓口の案内を確認してください。
決める順番:物件の取得から開業まで
順番を間違えると、買った後・工事した後に「許可が取れない」と分かることがあります。次の順に進めます。
- 泊め方を決める(旅館業か民泊か。180日を超えて泊めたいなら原則として旅館業)
- 物件の図面で、宿として使う床面積と客室の広さを測る
- 保健所・建築の窓口・消防署で事前相談
- 改修費の見積もりを、相談で求められた内容を入れて取る
- 収支を置く(稼働日数・単価・清掃と運営の費用・改修費の回収年数)
- 物件の取得・賃貸借の契約、改修の契約
- 用途変更の確認申請(200㎡超の場合)→確認済証の交付→工事→工事完了の届出
- 旅館業の許可申請または民泊の届出→開業
収支を置くときは、稼働率や単価を楽観的に置かず、「稼働が想定の半分でも続けられるか」を一度計算しておくと、判断の基準になります。
空き旅館を引き継ぐ場合の注意
営業中の旅館を事業ごと譲り受ける場合は、譲渡人と譲受人が都道府県知事等の承認を受ければ、譲受人が営業者の地位を承継します(旅館業法3条の2)。合併・分割(3条の3)、相続(3条の4・死亡後60日以内に申請)にも承継の定めがあります。
一方、すでに廃業した旅館の建物だけを買う・借りる場合は、承継する営業そのものがありません。新しい事業者が改めて許可を取る前提で、保健所に確認してください。
旅館の所有者の側から、廃業・第三者への引継ぎ・建物の活用を比べたい場合は、こちらの記事で公的窓口と旅館業法の条文を整理しています(→地方旅館を廃業する前に比べる3つの道)。
学校や公共施設を宿に変える場合は、公募や貸付の条件が加わります。公募情報は廃校活用の公募・サウンディング情報まとめ、借りる費用は廃校を借りる費用はいくら?で確認できます。相続した実家を宿にするか迷っている段階なら、売る・貸す・解体の比較から始めるのが近道です(→実家・空き家を相続したら何から?)。
チェックリスト:契約前に「はい」と言えるか
- 年間に泊めたい日数と、旅館業/民泊のどちらにするかを決めた
- 宿として使う床面積と、客室ごとの広さを図面で測った
- 保健所で、取れる区分と条例の上乗せ基準を聞いた
- 建築の窓口で、用途変更の確認申請の要否と用途地域を聞いた
- 消防署で、必要な設備と書類を聞いた
- 確認済証・検査済証が残っているかを確認した
- 改修費の見積もりに、窓口で求められた内容が入っている
- 稼働が想定の半分でも続けられるか計算した
よくある質問
Q1. 古民家を民泊にするなら、許可はいりませんか?
住宅宿泊事業法の民泊は、許可ではなく都道府県知事等への届出です(3条)。ただし泊められるのは1年間で180日までで(2条3項)、条例でさらに期間が制限される区域があります(18条)。対象の建物は、人の居住の用に供されていると認められる「住宅」に限られます(2条1項)。
Q2. 一棟貸しの古民家はどの区分になりますか?
旅館業の許可を取る場合、旅館・ホテル営業か簡易宿所営業のどちらかになります。どの区分で許可が取れるかは、建物の構造と条例によって変わるため、所在地の保健所で確認してください。
Q3. 宿として使う部分が200㎡以下なら、建築の手続は何もいりませんか?
用途変更の確認申請は不要ですが、建築基準法の基準に建物を合わせる義務は残ります。用途地域によっては宿が建てられない場所もあるため、建築の窓口で確認してください。
Q4. 廃業した旅館を買えば、前の許可で営業できますか?
廃業済みなら、新しい事業者が許可を取り直す前提で考えてください。営業中の旅館を事業ごと譲り受ける場合は、譲渡人と譲受人がそろって都道府県知事等の承認を受ければ営業者の地位を承継できます(旅館業法3条の2)。どちらの場合も、建物が今の条例の基準に合っているかを保健所で確認します。
Q5. 事業計画はいつ作ればいいですか?
事前相談の後です。窓口で求められる設備や改修の内容が分かってから見積もりを取らないと、改修費と開業時期が大きくずれることがあります。
参考にした一次資料
同じ失敗が、廃校や公共施設の転用でも繰り返されています。改修費の見積もり違いで止まった事例と、条件を先に潰して続いた事例を並べた記事はこちらです。
廃校活用の失敗例と成功事例25選|文部科学省データで読む「転用が続く条件」 →
相談の前に、自分の案件で数字を置いてみたい方へ
実務で使っている判断手順を、そのままnoteにまとめています(いずれも無料部分あり)。
- 廃校・空き施設の活用可否チェックリスト20項目(¥1,480) — 手を挙げる前に置く4つの数字と、「この数字なら見送る」撤退ライン
- 「ファンドの下」の承継再生 完全実装書(¥19,800) — 宿の承継再生を設例で追う、評価・スキーム・出口の設計図
- 地方遊休不動産の再生可否判断(¥9,800) — AI×財務×行政データで「買うべきか、やめるべきか」を数値化する全工程
AI実務家コンサルタント
大智(Daichi)
- ▶2013年から不動産関連の実務に携わる
- ▶公開資料・一次資料で地方の不動産と遊休施設を読む
- ▶AIは調査と整理に使い、判断の根拠は一次資料で示す

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